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経営史学会の課題
経営史学会会長 阿部 武司
2009年1月に湯沢威前学会長に引き続き経営史学会会長に就任いたしました。1964年に創立され、現在約860人という多数の会員を擁する本学会の発展に微力ながら努めさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
1930年前後に米国で独立の学問領域として出発した経営史学は、以後、故A.チャンドラー教授等の碩学を輩出し、わが国も含む多数の諸国で特に第二次世界大戦後、目覚ましい発展を遂げてまいりました。企業経営を取り巻く環境が激変している昨今、経営史学も大きな変貌を遂げつつあります。先進国における、製造業を中心としたいわゆるBig Businessの右肩上がりの発展の歴史が長らく主な研究対象でしたが、1980年代頃からは脱工業化の進展を反映して中小企業や金融・サービス産業に対象業種が拡大されました。また、globalizationの展開も反映して、以前から手掛けられていた多国籍企業の分析がいっそう深められ、従来考察が不十分であったアジアなどの後発国の研究も進められるようになりました。さらに現在世界的な不況の深化が憂慮されておりますが、先進国の中では例外的に長い不況に苦しんできた日本では、経営環境の激変に対する企業の対応に関してもすでにかなりの数の研究が蓄積されております。
以上のように多彩な展開を遂げつつある研究の成果を、会員各位が機関誌『経営史学』や英文論文を収録するJapanese Research in Business Historyなどの刊行物を通じて内外に広く発表することを支援するのが経営史学会の基本的任務であるのはいうまでもありませんが、学会としてはさらに以下の諸点に力を入れていきたいと考えております。
まず、研究の国際化の促進です。経営史学会は1974年以来、谷口財団のご支援のおかげで20世紀の最後の年にあたる2000年まで、富士コンファレンスの名称で世界的な好評を確立した国際会議を日本で毎年開催し、毎回のプロシィーディングズを英文のしっかりした書物として出版してまいりました。この会議は、日本の経営史学の成果を世界に伝え、日本人研究者に英文論文の作成や外国人との討議を経験してもらい、参加者相互の交流を深めるなど、計り知れない有益な成果をもたらしてくれました。富士コンファレンスは、谷口財団の解散により毎年の開催が不可能となり、21世紀に入ってからは第27回(2003年、「産業のリストラクチャリング」)、第28回(2006年、「テレコム産業の経営史」)、第29回(2008年、「M&Aの経営史」)と、数年置きの開催を続けてきました。国際的にも名声を確立したこのコンファレンスを、今後資金調達面の改善を図り、ぜひ継続していきたいものです。
富士コンファレンスが引き金になって、日英、日独など2カ国間の国際会議も盛んに開催してまいりましたが、近年では日韓、日仏の経営史会議が回を重ねており、これらも引き続き発展させていきたく思っております。とくに、湯沢会長時代に推進された韓国をはじめとするアジア諸国との交流は一層の進展を図るべきだと考えております。
次に情報化の推進です。国際交流を進めていく上で、上記の国際会議のプロシィーディングズや英文刊行物Japanese Research in Business Historyとともに、近年のIT化のめざましい発展の成果は活用されるべきでしょう。その意味で本学会のこのホームページはきわめて重要です。ホームページが、会員にとって便利なことはいうまでもありませんが、外部の社会、とりわけ外国との重要な結節点、情報発信の一環ですので、今後はその充実に努めてまいります。
最後に、研究者以外の方々、とりわけ若い人々に、経営史学の面白さを啓蒙書・講義・マスメディアなど様々な手段を通じて伝えることです。司馬遼太郎氏や城山三郎氏の歴史小説が比較的年配の日本人に読み継がれていることはご存知の通りですが、経営史学の成果は、それらの著者によって活用されているのにもかかわらず、残念ながら世に知られることがまれです。会員が達成した研究成果は、何よりも研究者のサークルつまり学会内で高い評価を得る必要がありますが、それに満足していては不十分です。そうした成果を一般の人々に広く理解してもらい、さらには知的な刺激を受け取ってもらえるように努めるべきでしょう。また、大学における若者たちの「理科系離れ」がしばしば指摘されますが、少なくとも経済学部や経営学部の学生には「歴史離れ」も明らかに見受けられます。とくに将来の研究者が育つ母体である学部や大学院での教育の方法やその内容の改善には、多数の大学教員を含む本学会としても意識的に取り組む必要があると思われます。
以上、本学会の発展にとって重要と思われる課題についてご説明しました。会員の皆様、さらには経営史学に関心をお持ちの非会員の方々の今後のご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
経営史学会会長 阿部武司
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